無料相談と弁護士の上手な利用方法について

雑記
2018.03.22

 法律事務所を開設してから,よくあるお問合せの一つに,「無料相談はやっていないんですか?」というものがある.
 もちろん,ラーメン屋さんで「無料のラーメンはないんですか」と言ったら追い返されるのが関の山であろうが,我々弁護士は,なぜこのような質問を受けることが多いのか反省してみると,法律相談というものが何なのか十分説明されてこなかったことに気付く.

 法律相談についてはいろいろな考え方があるかもしれないが,共通していえるのは,何らかの社会生活上の問題(いわゆる「もめごと」)に困っている当事者に対して,法律の専門家の立場から現状分析と対処法についての助言をすること,であろうと思う.
 これは,医療機関に例えていえば,「診断」と「処方箋」に近いものである.医師が直接患者さんにかぜ薬を売って儲けているわけではない.ここでは,病気の分析と,対処法の助言に対して,診療報酬が発生する.

 さて,その法律相談が無料で提供されている場合というのも存在するのであるが,それはどのような場合か,からくりを説明しておきたい.

 第一は,どこかからお金が出ている場合である.
 たとえば,弁護士会や公の団体が開催している法律相談所のうち,相談を担当した弁護士に日当が支払われるものがある.事件の種類によっては法律相談料の補助金の制度が利用できる場合もあるし,弁護士費用特約のように単に保険金として支払われているだけという場合もある.
 これらはいずれも何らかの原資から法律相談料が支出され,法律相談サービスが提供されているのであって,弁護士が「無料相談」をしているわけではない.

 第二は,公益活動やボランティア活動として行う場合である.
 近年はいろいろな弁護士が増えてきているとはいえ,それでもやはり多くの弁護士は,法を勉強する中で,何らかの分野に興味を持ち,その分野で自分の使命を果たしたいと考えているものである.なかなか実践するのは容易ではないが,そのような弁護士が,弁護士会活動や独自の活動の中で,ある分野の法律相談を無償で提供しているということはある.
 これはまさしく無料相談であるが,商売として「やっている」「やっていない」という類いのものではない.

 第三は,これが問題ではないかと思うのだが,単に商談をしたいだけという場合である.
 弁護士業として無料相談を行う場合,当然のことながらそれだけでは事務所の賃料も職員の給与も支払えないので,案件受任を目指すことによって収支を成立させることになる.ここに利益相反がある.弁護士としては(採算の取れない案件でない限り)最初から「受任する」という方針で助言するしかないのである.相談者はおすすめの受任プランと料金の説明を受けることになり,無料相談の経費が上乗せされた弁護料を支払うことになるとしたら….
 私の考えでは,これは法律相談ではない.医師が,儲けのために「この薬を飲みましょう」「この注射を打ちましょう」と勧めてくるとしたら,これが診察といえるだろうか.法律相談を商品説明にしてはならない,というのが私の考えである.

 もちろん,これはモデル論であり,すべての無料相談が上記のような押し売りをしているというつもりはない.むしろ,公益的な見地から相談を無料にしている先生方が多数であると信じているし,何も有料相談であれば無料相談よりも優れた助言が得られるというわけではない.
 結果的に大した助言が得られないのであれば,有料相談にお金を支払うよりも,無料相談の方が傷は小さい.実際そのように仰って無料相談を選択される方も相当数おられるし,それも合理的な選択だと思う.
 いずれにせよ,大抵の方にとって馴染みがないと思われる弁護士業界のからくりを知った上で,弁護士が「受任手続の選択」ではなく,「相談者の抱える問題」に正面からフォーカスして助言しているかどうかを吟味しながら,法律相談を利用して頂ければ幸いである.

(K.O.)